鉄骨やRCから木造へ
前回は価格転嫁の話を書きました。材料費が上がり、人件費が上がり、運送費も上がる。当然、建物の価格も上がっていきます。
そんな中で最近感じるのが、建築の「素材のシフト」です。鉄骨造から木造へ。RC造から木造へ。店舗や事務所、施設など、これまでなら鉄骨やRCで建てていた建物を「木造でできないか」と考えるケースが増えてきています。
僕たちは木造を手掛ける会社ですから、これはもちろん期待したいところです。ただ今回は、木造が増えてよかった、という話だけではありません。
木造が増える理由として、環境にいい、CO2削減につながる、サステナブルだ、いろいろな言葉が使われています。もちろん、それも間違いではないと思います。
でも現場にいる僕からすると、もっと単純な理由が大きいように思います。
鉄骨が高くなった。RCも高くなった。だから「木造でできないか」と考える。
結局、コストの問題がかなり大きいのではないでしょうか。
木造は規模や用途によっては比較的コストを抑えやすく、施工もしやすい。建てるまでのスピードも速い。そういう意味では、非常に優秀な構造です。
サステナブルとか環境に優しいという話は、少し言い方は悪いですが、その後についてきた言葉でもいいんじゃないかと僕は思っています。
本当に怖いのは、職人がいなくなること
ただ、僕が気になっているのはその先です。
これは職人不足の序章に過ぎないんじゃないか。
木造建築も、今は本当に便利になりました。プレカットがあり、金物があり、加工された材料が現場へ運ばれてきて、番号通りに組んでいけば建物が形になります。
これは日本の技術力が上がった証拠です。昔のように、すべての大工が墨を付け、手で刻み、継手や仕口を作れなくても建物を建てられる。
ものすごい進歩だと思います。
でも便利になればなるほど、使わない技術は失われていきます。
昔は当たり前だった技術を使わなくなる。使わなければ覚える人もいなくなる。教える人もいなくなる。そして最後には、できる人そのものがいなくなる。
これは木造だけではありません。
RC造なら型枠大工がいて、鉄筋工がいて、左官職人がいる。鉄骨造なら鳶がいて、鍛冶職人がいて、溶接をする職人がいる。
もしRC造が減り続けたらどうなるのか。鉄骨造が減り続けたらどうなるのか。
当然、その仕事をする職人も減っていきます。
新しく建てるだけなら、それでも新しい工法や機械で対応できるのかもしれません。
でも古い建物を直す時はどうでしょう。
壊れたものを復元する時。災害で被害を受けた建物を直す時。昔の建物を残そうとした時。
その時に必要になるのは、結局その仕事を知っている職人です。
図面があっても、材料があっても、やれる人がいなければ直せません。
大工だけの話ではない
木造も同じです。今、大工はどんどん減っています。その一方で、現場では外国人技能者の力を借りることも増えてきました。
それ自体が悪いと言いたいわけではありません。実際、人手不足の現場を支えてくれている人たちもたくさんいます。
ただ、日本の大工技術をこれから誰が継いでいくんだろう、とは思います。
さらに言えば、僕たち大工だけの話でもありません。
ノミを作る人。カンナを作る人。ノコギリを作る人。砥石を採る人。刃物を研ぐ人。木を育てる人。製材する人。
その仕事を支えている、さらにその下の仕事があります。
農業だって同じです。農機具を作る人がいて、修理する人がいて、部品を作る人がいる。
世の中は、一つの仕事だけで成り立っているわけではありません。
一つの建物を建てるだけでも、数えきれないくらい多くの会社や職人が関わっています。
大企業だけで日本が成り立っているわけではない。テレビやニュースで名前を聞く会社だけで経済が回っているわけでもありません。
その下には中小企業がいて、そのさらに下には、小さな工場や個人の職人や家族経営の会社がいます。
そういう人たちが日本を支えている。
僕はそう思っています。
日本はこれから、何を残したいのか
僕たち建築業は、インフラを支えるためのかなめの一つだと思っています。
家を建てる。店をつくる。工場を直す。雨漏りを直す。災害が起きれば復旧する。
最後に現場へ行って、実際に手を動かすのは職人です。
木造が増えることは、木造をやっている僕たちにとってチャンスです。それは間違いありません。
ただ、その一方で鉄骨が減れば鉄骨の職人が減る。RCが減ればRCの職人が減る。そして木造も、誰でも簡単に建てられる方向だけへ進めば、本来の大工技術を持った人は減っていきます。
便利になる。効率が良くなる。コストも下がる。
それ自体は悪いことではありません。
でも、その便利さと引き換えに何を失っているのか。
そこは一度、考えてもいいんじゃないでしょうか。
全部を効率化して、全部を簡素化して、全部を安くする。
その結果、30年後、50年後に、
「これを直せる人がいません」
となったら、それでは困ります。
日本には、大企業も必要です。
でも、その大企業を支えている中小企業も必要です。さらにその仕事を足元で支えている職人も必要です。
いろいろな職業があって、いろいろな技術があって、それで初めて日本は成り立っている。
木造が増えている今だからこそ、木造屋の僕自身も、そこは忘れてはいけないと思っています。
さあ、日本はこれから何を残していくのでしょうか。
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